世界のひとつひとつ
すること、あることひとつひとつ


なんにも意味がないと
くだらないと思っていた昨日が信じられないくらい。


それほど、キミと出逢ってからの世界は



なにもかもが輝いて見えた。

なんて恥ずかしい事も平気で思えるから、おかしいよね。






意味をもつ  後






「お腹すきません?」

「それもそうだねぇー。あ、あそこのパン屋。行ってみる?」


2人の前には空腹をくすぐる香り漂うパン屋が1件。


「いいですね♪♪」

2人でパン屋に入ると、カウンターには金髪の若い男の人が1人。

「いらっしゃい。君たちだねー。」
ニコニコと笑う姿はとても人懐っこくには映ったが、カカシはそうではないらしい。


カカシはさっさとパンを選び、に手渡す。
不思議に思ったが、も2つ選んでレジに向かうと男の人は。


「さっき馴染みのお巡りさんが来てね。珍しく若いカップルがうろついてるからあてられないようにってさ。」

「えーっと。」
は何と言えばよいのやら。


「さっさと会計してくれる?」
何となく苛立ったカカシが男を急かす。

「ん!650円ね。彼氏さん、あんまりツンツンしてると彼女さんに嫌われちゃうよ?」

「アンタに関係ないでしょ。」

「ね、彼女さん。彼いつもこんな感じなの?」
とりつく島もないカカシくんに、金髪の店員さんは口元に手を添えてひそひそと私に話しかける。

「あーそんなことないですよ?多分・・・えっと、お腹空いてるからじゃないですかね?」
同じく私もひそひそと店員さんに答えてみた。



、聞こえてる。」

「え?あ、」

「いこ。」

「うん。」
カカシくんはさっさと店の外に向かって歩き出した。



「まいどありー。」


はまたしても、振り返りぺこりとお辞儀だけして顔をあげると。

「今度はちゃんと学校がお休みの時に来てねv」
手をふりながらニコニコと笑う店員さん。



あ。
バレてる。




先に歩くカカシくんに。

「だから機嫌悪かった?」

「別に。悪いってほどでもー。あ、お腹空いてたからかもしれない。」



うそつけ。

「小学生じゃないんですから。」

「んーだってなんかあの笑顔うそくさいんだもん。」

「そうですか?いい人そうでしたけど。」

「わざわざからかう感じもヤダ。」

「えーでも、あ!川だー♪♪」

何か言いかけていただったが、興味ははやくも川に向いているようで。



あの店員が自分たちのサボりに気づいているせいもあったけど、
なんだか妙にに馴れ馴れしいからなんて。


言えないでしょ、そりゃ。


先に走っていったに追いつくと、カカシは川原の適当な場所に座る。

「お昼はここにする?」


「はいv」


あ。

笑った。

いや、クスクス笑う顔は何度か見たけど。



の笑顔は、カカシにはすぎるほどに眩しかった。


「このパン、あの店員さんが作ったんですかねぇ。」

「さぁー?多分そうなんじゃないの。」

「すっごく美味しい。」

「まー・・・あの店員は気にくわないけどね。」


カカシくんて、案外引きずるタイプ?



また買いに行きたいな。
今度は・・・カカシくんは一緒じゃないだろうけど。



お昼が終わると2人は川で遊んだ。



カカシが石を投げると、水面を跳ねるように何度も弾んで遠くに飛んでいった。

「わ!なに今の。」

ニヤリと笑ってカカシはもう一度適当な石を拾い、水面に滑らせるように投げた。

「すごっ!え、私もやるー。」

「多分、にはムリ。」


「えー。」




はカカシを真似てやってみたが、結局何度やってもポチャン、と石は飛んでくれなかった。

「ハハハ、でしょ?結構コツがいるのよ。」

「むー悔しい。・・・・あ!カカシくん。しょーぶしょーぶ♪♪」



出来なかったのがよっぽど悔しかったのか、今度はは自分の得意分野で勝負を仕掛けてきた。


結構負けず嫌いなんだな、って。


「ん?なーに、草?」

「そう!草相撲、知らない?」

「あーはいはい、引っ張ってちぎれた方が負けってやつ?」

「そうデース。小学生の頃やらなかった?」

「んー何回か?」

「はい、じゃあはっけよーい。のこった!」


プチ


「あ、」

「はい、カカシくんの負けー。」

「・・・なにこの悔しさ。ちょ、もーいっかい。」

「いいですよ〜。」




適当な草を選んでもう一度。


「はっけよーい、のこった!」


・・・・

・・・・

プチ


「だぁ!くそっ。なに、なんで?」

「ほほほ、ワタクシに勝とうなんて甘くてよ。」



「・・・さっきは出来なかったくせに。」


「う、」

!もっかい。」

その後2回勝負したけど、カカシくんは1回しか私に勝てなかった。
(いちゃもんつけるからお互いが選んだ草を取り替えたのに、だ。)



カカシくんてかなりの負けず嫌い?


「はぁーなんかこんなことしたの小学生以来かも。」

「ですねぇ。昔はよくおばあちゃんの家の近くで、泥んこになるまで遊んだもんですけど。」

「おばあちゃんの家は田舎なんだ?」

「はい、ここよりさらにいなかーってかんじですよ。」

「へぇー。オレんとこはばぁさんも近所だからねぇ。そういえばあんま泥にまみれて遊んだことってないかも。」

「うわー今どきの子だ。」

「ハハハ、なに言ってんののほーが年下のくせに。」

こんなことで素直に笑えている自分に驚いた。
学校の奴らが見たら驚くだろうなー。



あのはたけカカシがこんなに無防備に笑うのか、と。

よくテンゾウに「先輩は目が笑ってないんですよ。」って怒られたっけ。



「カカシくーん。」



ん?

少しカカシが色々と思案している間に、は川を覗きこんでなにやらおいでおいでをしていた。


なんか見つけたのかな。

「なーに?」

「魚!」

「え、マジ。」

の指さす方へ慌てて駆け寄り視線をやると、そこには小さいけれど流れに逆らって懸命に泳ぐ魚たちがいた。

「オレ魚って、水槽以外で初めてみるかも。」

「・・・。」

ジーっとがオレを見ている。

「なに?」

「カカシくんて、もしかしていいとこのお坊っちゃん・・・とか。」



なんだか聞いてはいけないけれど聞いてみたい、というようなかんじで恐る恐るが聞くから。

思わずからかってみたくなった。

「そーなのよ。親父が案外儲けてるらしくてさ?ちっさい頃から跡取りとして色々やらされてたから、英才教育っていうの?
 外で遊ぶとかあんまりよくわかんないんだよねー。」


「マジっすか。えーどうしよう、」

はある漫画の超お坊っちゃん集団を思い浮かべて、1人慌てた。
・・・・明日下駄箱に赤紙貼られたらどうしよう。


「うん、うそー。」


「は?」

「だから、ジョーダン。」

「・・・なんだ。」

「オレがお金持ちの息子じゃなくてがっかり?」

「いえ、むしろ安心?」

「安心?なんで。」

の思考回路って時々よくわからない。
おもしろいから、いいんだけど。



「あ!!ザリガニー。」

「わーザリガニなんて図鑑でしか見たことないのに。」
なんて発言したら、さっきの冗談もホントに冗談だったのか疑ってるみたいだった。


「ザリガニって食べれるんですよ。」

「え、そうなの?あんなの食えるんだ。」


オレたちの言葉の意味がわかるわけないだろうに。
捕って食われてはたまらない、と思ったのかザリガニはカサカサと岩陰に隠れていった。


それを目で追っていたの身体が、急に崩れた足場によってぐらりと後ろに傾いた。



「うわ!」

「っ!・・・セーフ。」

危うく水浸しになる所だったを、素早く隣にいたカカシがキャッチした。




その動作は一瞬の事なのに、

それから後はしばらく目が合ったまま



自分たちだけ世界から置いていかれたような、自分たちだけ世界が止まったような




そんな気がした。





「・・・っ、ゴメン。」

カカシはを元の体勢に戻し、パッと手を離した。


「あ、いや。あのー・・・アリガトウゴザイマス。」



お互い顔が真っ赤になっているのがわかった。



うわ〜〜〜///カカシくんの顔まじまじと見ちゃったよ!!!
なんか女の子みたいに綺麗な顔だった。

カカシくんてやっぱり不意なスキンシップはダメなんだ?
女慣れしてそうなのに。


っていうか・・・・・
キスされるかと、
勝手に思ってしまいました。



あーなに、これ?
うわ〜〜〜///なに?なんでオレこんなに照れちゃってんの。


勢いとはいえ

キス、しそうになりました。

いや、それはマズイでしょ?
この子シャレでそうゆーの出来なさそうだし。


あぁ、でもちょっとしてみたいかも。

って、なーに考えてんだか。




「そろそろ、いこーか。」

「あ、はい。」


それまでのはしゃぎようがうそのように、

お互い黙ってとぼとぼとバス停までの長いようで短い距離を歩いた。


でも時間には余裕があったから。



少し前を歩くカカシくんは、ゆっくり、ゆっくり歩いてくれた。


「寒くない?」

「あ、うん。平気・・・です。」

少しずつ傾きだした太陽が、紅く辺りを包み込む。

私とカカシくんを包む夕焼けが、あたたかく身体を照らすのに。




心が少し寂しい気がするのはなんでかな。




「カカシくん。」

「ん?」

「手、繋いでもいい?」




カカシくんは、横に来て今日1番じゃないかってくらいの笑顔で。




「オレも今そうしたいと思った。」



そう言って私の手をとって再びゆっくりと歩き出した。
カカシくんの笑顔がまぶしく感じたのは、決して夕陽のせいじゃないと思う。


この日のこの感覚を一生覚えていたい。
大人になっても。

ずっとずっと。



2人朝降り立ったバス停のベンチに座り帰りのバスを待つ。
その手はずっと繋がれたまま。

腕時計が何時を刻んでいるのか、は先ほどからひどく気になった。
でもチラチラと時間を気にするのは、この場では似つかわしくない気がして。



このままバスが来なければいいのにと思った。

でも運転手さんは職務を全うしなければならなくて。
それが時刻表の時間にバス停にバスを走らせる事であるかぎり、カカシくんとの別れは確実にやってくる。




だから、せめてカカシくんとのこの世界を。
現実から離れた今が一分でも一秒でも長く続きますように。


は心の中で静かに願った。





学校も、家も名前が本当なのかもわからない。
今日1日ずっと一緒にいたのに、
気づけばお互い本当はどこの誰なのか確かな事はひとつもなかった。




今日別れたら再び出逢うことはないだろう。
それでいい。
今日限りの現実逃避の締めくくりは


それがいちばんしっくりくると思うから。


どこに住んでるの?携帯の番号とアドレス教えて?学校はなんてとこ?またあっちでも遊ぼうよ。

知りたいけど知りたくない。
聞きたいけど聞きたくない。



それを発する事が、ひどく無粋で。
その場に合わない気がしたから。




バスが来て、立ったのはカカシくんが先。席に座ったのは私が先。


「帰りは私が払うね。」
ちゃんとそうするつもりだったのに。
私の世界はまたしてもカカシくんの肩に寄りかかって傾いた。




静かに寝息をたてて眠る



行きのバスでは面白半分、迷惑半分に感じていたのに。
ただの女の頭ってだけなのに。
ただ手を繋いでるだけなのに。

それがってだけでこんな気持ちになる心ってやつは、ホントにやっかいだけど



そう感じれることがひどく愛おしい。



ずっと見ていたい気もしたけど、そうするわけにはいかなくて。
カカシは器用に片手で本を取りだし、視線を文字に落とした。


繋ぐ手は、しっかりとオレとをつないでいた。
肩にかかる重みは、朝よりもしっかりとはっきりと意味をもっていた。





気づけば、隣に座っていたはずのカカシくんはいなくなっていた。
今度はタイミングよく、自分が降りるバス停のひとつ前で目が覚めた事に
はやっぱり今朝の事はは特別だと思った。


さよならも言えなかった。


今日の事は神様がくれた休日かも知れないな。




転校して1ヶ月たつのに未だに自分に馴染まない制服と学校。
高校生だから大丈夫だと言っても
両親は1人、前の土地に暮らすことは最後まで許さなかった。



前の学校の友達を思うといつまでも新しい友達と深く関わる気がしない。
当たり障りのない会話。
愛想笑いが板について、そのうちそれが本当になるんじゃないかって心の底では怯えてた。


そんな毎日に、バスに乗ると
いつもこのまま遠くに行ったらどうなるのか自然と考えてしまう。




いい加減大人になれって事かな。


切り替えが必要なのはわかっていた。
いつまでもぐちぐちと前の学校の事を思っても仕方がないことも。


不思議とカカシと過ごした時間は久しぶりにわくわくした、ドキドキした。

面倒な愛想笑いも。お世辞も見栄も捨てて。



笑うのって、誰かと話をするのってあんな簡単な事だったんだ。




「んーっ、よし!!」
バスを降りて1人伸びをし気合いを入れる。


カカシくんが今もどこかで生きていると思ったら、
あのバスまでの道を思い出せば


自然と楽に呼吸が出来る気がした。



「ただいま〜!!!」
玄関をあけ、心配しないように言ってもやはり心配しているだろう両親になんでもないというアピールで。
それはそれで、両親を驚かすことにはなったけど。



は家中に響く大きな声で、ただいまを言った。





週末が明けて3日ぶりに学校へ行くと、友達たちが金曜の事を聞いてきた。

寝過ごしちゃって、というの休みの理由もそれなりに受け入れられているようだ。

あぁ、よかった。
いつもより自然に笑えてる気がする。




放課後になると、教室のどこからか校門の所にかっこいい男の子が立っているらしいという噂が広まった。
は友達と「彼女でもいるのかねー?」とか、「ナンパしに来たんじゃないの?」とか言って気にも留めない。

興味を引かれたのか、友達の1人が窓から校門を覗いたが誰もいないらしい。
「なんだーガセじゃん。」
少しがっかりする友人。

「もう彼女とどっかいったのかもよ?」

「それもそうだね、うちらも帰ろっか。」

そうして何人かの友達たちと帰りの準備をして、連れだって校門に向かった。

「お腹すいた〜。」

「どっか寄ってく?」

そう言ったの視界の端に、黒いものがチラリと映った気がした。



「ちょっと。」



まさか自分に向けられているとは思っていないらしく、ってば見事にスルー。


「高校2年、ー。」


「え?」
聞き覚えのあるフレーズには振り返ると、



「か、カカシくん?!」

「や。」

「えと、えっと・・・・え??」

「漫画みたいな展開でテンパるのはわかるけどさ。オレもかーなり恥ずかしいんだから、さっさと行くよ。」

「え、私?」

「オレ女の子の知り合いなんてくらいなんだけど?」

またこの男はさらっと嘘をつく。
女の子と話してたの見たんですけど。


「とにかく。、借りるね?」

目をパチパチさせてる友達たちに一言残し、腕を引っ張るカカシくん。



あーあ。
明日は色々聞かれるんだろーな。

でも恋バナって盛り上がるし。



っていうか、私はいつの間にこの男が好きになってたんだ。



「なんで?」

「どのなんで?」

どのって、なんで私のこと待ってたのかとか
っていうかなんで学校わかったの?あ、制服?
なんでまた私たち会ってるの?
あの日でさよならだから、何も聞かないし言わなかったんじゃないの?

そりゃあずっと気になってたけど。

ってなんで私がカカシくんを気にしてんの。




好きだから?



うそォ?!



なんで私カカシくんを好きになってんの?いつの間に?


なんでなんでってたくさんのなんでが浮かぶ。


「えーっと、全部?」

「ハハハ、りょーかい。」





「ま、とりあえずスキだからかな。」





「はぁ???!?」
もう両思いって都合よすぎ。




「他のなんではこれからゆっくりね。」

あっけにとられながらも、まぁいいかと思って手をつなぐ。

「うん!」




2人出逢って、



その瞬間から世界は確実に意味をもった。






おまけv





それから2人帰りに寄った店で向かい合って座っていると、はカカシの手にあった本の存在が気になった。


「そういえば、カカシくんて大学決まってるのにまだ参考書もち歩いてるんだ?」

「参考書?あぁ、これ?」


カカシは鞄から一冊の本を取りだし、に見せた。

「さすが、出来る人は違いますねー・・・っ////」

パラパラとページをめくるの顔が一瞬にして真っ赤になった。



「なっ、ななななにこれ///!!」



「なにってイチャイチャパラダイス。」

「はぁ?カカシくんいつもこんなん読んで?!うわぁ〜〜〜///」

「とか言ってしっかり読むあたり、も興味あるんだ〜♪♪」


「ななななないデス!!ないし!断じてナイカラ!」

「くくくっ、あってもこれはダーメ。」

すっと、カカシはの手から本を抜き取り再び鞄にしまった。




「やっぱなんだかんだ言ってカカシくんもエロ本に興味ありなんだ。」


まだ真っ赤にした顔で下から睨む


わーその顔、誘ってるように見えるんですけど?



「まー・・・ね。オレ、健全な男子高校生ですから?」

「うぅ〜わかってるけど!わかってましたが、一応ショックです。」

「そんなもん?」

「ショックというか、衝撃というか。」

「ハハハ、安心してよ。今んトコの身の安全は保障しとくから。」

ぽん、とカカシくんは私の頭に手を置いた。


「それって、」

「ん?」

まだ高校生だし。
そういうのははやい気もするからすればそれがいいんだろうけど、一応女としてどうなんだろう。


「なんでもないデース。」
はとりあえず身の安全を優先させることにした。


「でも、」

「ん?」






「そのうち実践で本の内容、教えてあげるねv」




「い、いりませんー///」

そんなにアハハハ、と無邪気に笑うカカシ。











ミナトは鬱陶しがるカカシ先生をこれでもかってくらい可愛がってたらいいと思います。


すいません、本作での希望がこんな所に出てしまいました。
今回の話とは全然関係ありません。
おっと、若干の腐の香りがしますね。お嫌いな方ごめんなさい。



ワタクシにも確かにあったはずの青春、が裏テーマですw
カカシ先生のようなステキな殿方との現実離れした青春はカケラも見当たりませんでしたが、高校生の時代もありました。

なんかトータル甘酸っぺーかんじがぷんぷんしますが、
ワタクシが若い気分に浸ってみたかったということでお許しいただければ。

ものの見事に現代パラレルのワールドにはまってしまったワタクシw
次回こそは連載の続きが書きたい!

お分かりかと思いますが、ワタクシの文章能力ゆえ伝わっていない方もいらっしゃると思うので
補足ですが、お巡りさんはエロ仙人。パン屋の店員は四代目様デス。
気づかなかったvって方はまぁ、それはそれで支障はないのでオケですw